王明琳・小尾羊ジャパン社長
  中国伝統の鍋料理、蒙古火鍋。「小尾羊」(シャオウェイヤン)は中国国内だけで約700の火鍋専門店をチェーン展開する外食大手だ。昨年12月に日本上陸 して以来、都内に新大久保店(新宿区)と池袋店(豊島区)を開店。12月には六本木(港区)にも店を開く。日本法人、小尾羊ジャパンの王明琳(おう・めい りん)社長に、日本進出の狙いや今後の戦略について聞いた。

――中国の外食産業の動向と、そのなかでの小尾羊の位置づけは?

 一連の経済改革を通して家計は豊かになり、外食産業は中国で最も成長著しい分野の一つになった。国内総生産(GDP)の2ケタ成長が続い ているが、外食産業の市場規模も年率16%成長をみせている。2001年に会社を興した内モンゴル地区は決して都会というわけではないが、週に1~3回は 外食する。「小尾羊」は中国で直営・フランチャイズ(FC)加盟店合わせて700店を展開するが、外食産業の売上高ランキングで3位に位置する。高級店と いうわけでなく、中級より下のゾーンを狙っているため多くの国民に受け、結果的に成長のペースが早まった。

――中国でも外資が入ってきて、ファーストフード店などが増えている。そうした新業態との競合は感じるか。また、経済発展に伴って、忙しく食事にかける時間も減る傾向にあると聞くがその影響は?

 新しい業態は確かに増えているが、火鍋には何百年もの歴史があり、中国の食文化の一つになっている。地位の高い人もそうでない人も、豊か な人も貧しい人も、若い人も高い年齢層の人も、普段からみんな好んで食べている。同じ中華料理でも広東料理や北京料理などとは異なり、流行のサイクルがな い。従って、喫茶店や西洋料理、ファーストフードとは競争はあっても、影響を受けづらい位置づけにあると認識している。

 労働時間の増加による影響もあまり感じない。当然、地域差はあると思う。上海や北京などの大都市では忙しいという。とはいえ、もともと中国では残業が少ないので、仕事を終えてみんなで食事にでかける機会は多い。

池袋店には食べ放題を導入した
――日本での事業展開の現状は?

 日本法人の立ち上げは06年12月。今年4月28日に開店した新大久保店は、中国人が多く集まる場所ということで立地を決めた。「小尾 羊」ブランドや火鍋という料理に対する認知度が高い中国人を意識することで、まず1号店としては経済的リスクの回避を狙った。ところがふたを開けてみると 意外にも日本人客にも支持された。当初の想定では大半が中国人客と見込んでいたが、実際には新大久保店の4割が日本人などの中国人以外の客だった。これ だったら、他のエリアでも日本人に受けるのではないか、と考え7月31日に池袋に2号店を構えることにした。

 池袋店では考え方を大きく変え、日本人を意識したコンセプトを採用した。例えば、メニュー。中国の「小尾羊」でもそうだが、新大久保店 では単品で注文するスタイルになっている。しかし、火鍋になじみが薄い日本人は何を頼めばいいのか分からない。そこで池袋ではコース料理を前面に出した。 食べ放題も導入した。これも中国にはない文化だ。内装にも気を遣っている。中国人は明るい内装を好む。そして、個室より大衆的な雰囲気のなかで食事をした いというニーズが強い。これに対し、日本人は落ち着いた雰囲気と個室を求める傾向が強いためだ。そのため、日本人の内装設計事務所を使い、新大久保では1 室しかなかった個室も大幅に増やした。

――業界団体の統計によると、日本の外食市場(既存店売上高)は昨年かろうじてプラスに転じたが、伸びを支えたのは喫茶店やファーストフード店だ。飲酒運転の厳罰化の影響もあり、苦戦している業種も多い。日本市場の魅力は?

 「小尾羊」はアラブ首長国連邦、オーストラリア、英国、カナダ、ベトナムにも店舗を持つが、日本市場の魅力は地理的距離の近さ。スープな ど一部食材は中国本社から持ってきているので大事な要素の一つだ。漢字を使うなど、文化的にも共通する点が多く中華料理を提供する店も街のあちこちで見か ける。

 中国国内では主な都市をほぼ網羅した。それ以上に発展しようとすれば海外に目を向けることは企業としてごく自然なこと。当然、日本人は 細かいところがあり、衛生面やサービス、内装にも口うるさい。半面、客層が文化的なところが気に入っている。中国人はマナーに欠くところがあったりする が、例えば接客時にスタッフがモンゴル文化について説明していても日本人は礼儀正しく最後まで耳を傾けてくれる。食に求めるヘルシー志向も高い。そうした 海外文化のよい面を吸収し、中国に持ち帰ると今以上にいい店を作るうえでも役に立つ。

 飲酒運転の取り締まり強化については、今のところ都心にしか店がないのでそのことによる売り上げ減は心配していない。都心の移動は電車中心だと認識している。

――投資回収も早いといった点も着眼点か?

 客単価が中国では50元(900円)前後なのに対し、池袋では4200円程度。従って、2年半から3年で投資を回収できるとみている。 12月に出店予定の六本木の店舗については店名に天上界の声が広がっている空間のことを意味する「天籟原(てんらいげん)」を冠した高級路線を狙ってお り、客単価も7000円前後を見込んでいる。

 もっとも日本では人件費もテナント代も高い。想定外だったのが、保証金。来日して新大久保に出店する際、3500万円の保証金を要求され驚いた。

料理の提供とともに、モンゴル文化を日本に伝えたいと話す王社長
――今後は日本でどう事業展開を進める?

 六本木を含め3店舗でまず結果を出したい。中級ゾーンの新大久保店や池袋店と高級路線の六本木店では業態が異なるので、それぞれでノウハ ウを積み上げる。そのうえで、成長のペースも加速する。来年にかけ、恵比寿(渋谷区)、銀座(中央区)への出店を計画している。さらにFC店の展開に向け 体制を整え、地方にも店舗網を広げたい。FCチェーン向けには、池袋や六本木とは異なる家族連れを意識した新業態を開発する。このファミリー向け業態をま ずは直営店で手がけ、実績を作った後にFC店に導入していく考えだ。

 中国でライバル関係にある「小肥羊」(シャオフェイヤン)が同じく日本に進出してきている。上陸時期は「小肥羊」の方が少しだけ早い。 当社の火鍋の特徴は3種類のスープを使って食べるところにある。特にきのこを使ったスープの味を出すのが難しいので、当社としてはその部分を積極的にア ピールしていきたい。また、店舗運営も優秀な日本人を集め、管理レベルを高めていく。

 日本での上場も考えている。今後、1、2年以内という短期間での実現は視野に入っていないが、すでに証券会社との話し合いは始めている。店舗基盤を整えていくうちに上場にむけたスケジュール観も固まるとみている。

(聞き手はNIKKEI NET 山田喜芳)


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