山下茂
ピジョン執行役員・海外事業本部長
  1年間に生まれる子どもの数が日本の16倍に達するという中国。ベビー用品大手のピジョンがこの巨大市場攻略に向け、足場固めを急いでいる。昨年11月の 保育事業参入に続き、今年末にはベビー・マタニティ用品の新工場が完成する。折りしも2007年の中国は、60年に1度の「金の豚年」。その年に生まれた 子どもは生涯おカネに困らないとされ、縁起担ぎの出産も見込まれるという。執行役員で海外事業本部長の山下茂氏は「育児用品需要へのプラス効果は来年以降 も続く」と事業拡大への意気込みを語る。

――中国での事業展開の概要は

 上海に100%出資の現地法人「ピジョン上海」を設立し本格進出したのが、2002年春。それ以前は輸出で対応していたが、市場の急拡大 に伴い、他社に遅れを取ってはならないとの判断で進出を決めた。稼ぎ頭はシャンプー、ローション、オイルといったトイレタリー関連商品。インドネシアや中 近東でも販売しているが、中国に比べると苦戦を強いられている。中国では競合相手の米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)などと比べても1.5倍 ~2倍という高めの価格設定にも関わらず、高級品としての位置づけが沿岸部を中心にした富裕層に受け入れられている。

 中国事業の売上高は前期実績で26億円。その4分の1をトイレタリー関連商品が稼ぎ出している。昨年はより高級クラスの新製品を発売した。なかには日本円換算で1000円もするベビー用クリームもある。今後も力を入れていきたい分野だ。

――ピジョンが得意とする富裕層を含め、現地のベビー用品市場をどうみる

 中国で毎年生まれる子どもの数は1800万人。一方、世帯月収5000元以上の富裕層が、年率10%ずつ増えるとの見方がある。富裕層の 比率が高まるほど、ピジョンの潜在顧客も増える。特に今年は「金の豚」といい、60年に1回の幸運な年に当たるため、赤ちゃんをもうけたいという人も多い とされる。出生数が増えれば、その効果は今年だけにとどまらず、1歳、2歳と、来年以降のベビー用品需要にも良い影響を残す。

 高付加価値品へのニーズは根強い。実は数年前、やや価格を抑えた新ブランド「NEO(ネオ)」を投入したことがある。現地メーカー製品 に対抗し、富裕層だけでなく中流の人に購入を促すには、第2ブランド戦略が効果的だと考えたためだ。ただ、「貝親(ピジョン)」ブランドを冠しない第2ブ ランド製品とはいえ、半値とか3分の1という価格設定はできない。せいぜい3割-4割安くするのが限界。結果的には3割程度の価格差の場合、第2ブランド 製品よりも「貝親」ブランドを選ぶ人が多かった。今は「貝親」に集中する形に切り替えている。 

――昨秋、上海市内に直営の保育施設を設立した

上海の保育施設には工作の時間も
  日本人の駐在員が増えてきたのに加え、富裕層の利用も見込み参入した。中国市場の将来性を考えた時、物販だけでなくサービス分野にも足がかりを作っておき たい。サービスの中身は日本国内での展開と似ている。「KID-O-KID(キドキド)」という遊戯部門では、幼児向け玩具販売のボーネルンド(東京・渋 谷)の遊具を使った様々な遊びが体験できる。「就学前教育」部門では、幼稚園入園前の子どもたちを対象に、集団生活に慣れ親しむためのプログラムを提供し ている。

 オープンから半年が過ぎたが、月を重ねるごとに利用が増えている。登録会員は500人以上。当初20人前後からスタートした月極めの保 育契約者も、現在では約60人に達する。登録会員の9割が日本人、あるいは日本人の配偶者を持つ人たちだ。今年の終わりには単月黒字化を目指したい。

 物販への発展は考えていない。施設に自社製品を置き、購入してもらう仕組みが整えば利用者の利便性は高まるが、当局に認められていな い。日本でも保育施設事業と物販は分けた戦略をとっており、中国においてもソフトサービスに特化する。「母乳で育てたいが、母乳が出ない」「離乳食に切り 替えるにはどうしたらいいか」など育児の悩みはさまざま。ピジョンが蓄えてきた独自のノウハウを生かし、そうした悩みに対する解決策を提供できないか有料 サービスを検討中だ。

――年内には上海の新工場が完成する

 上海市郊外の青浦地区に10億円を投じ建設中だ。5月10日に着工し、11月末の竣工を目指している。設備の搬入後、12月には一部品目 で生産に入る。稼動後は日系の協力メーカーからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けていたトイレタリー商品の一部を自社生産に切り替えるほか、 上海市内で生産していたシリコン製乳首を移管する。品質と供給能力を安定化させるのが最大の狙い。毎年売上高が増えるなか、もう一段売り上げを伸ばすため の足場固めと位置づけている。

 コスト面でのメリットも見逃せない。例えば、母乳パッドやおしり拭き。現在はタイにある「ピジョンインダストリーズ(タイランド)」か ら購入しているが、中国に輸入する際、10%以上の関税を支払っている。中国国内で生産できればその必要はない。おしり拭きについていえば、競合相手の J&Jが既に中国生産を始めている。消耗品は競争が厳しい分野なので、関税分のコストも無視できない。 

――中国ビジネスで難しい点は

 法律の詳細が明確になるのに時間がかかるため、その過程で情報が錯綜(さくそう)する点。知見のある人に尋ねても同じ答えが返ってこな い。法律事務所に聞いても3社あれば3社から異なる答えが返ってくる。役所に聞いても担当官によって違う回答をされる。政府がどういう施策を考えているの か、極力早い段階でつかみ事業への影響を回避することが、中国ビジネスの成否を決める。

 ここ1年から1年半ぐらい、製品の安全性を問題にする動きが強まっている。もともと規制がないため、日本や米国に倣うことが多いのだ が、十分理解されないまま規格化されたり、必要以上に厳しい規制値が設定されることに戸惑いを覚える。例えば、日本国内にはベビー肌着に対するホルマリン 使用規制がある。海外にはほとんど存在しない日本特有の規制だったが、中国では日本以上に厳しい数値が課された。

――難しい市場でどう販路を拡大する?

山下執行役員は販売の新しい枠組み作りにも意欲をみせる

 広大な国土での市場開拓は沿岸部から始めた。4つの直轄都市(北京・上海・重慶・天津)や、日本の県庁所在地に当たる省都、1級都市に 絞って営業活動を展開してきたが、ここ数年は徐々に内陸の中西部にも営業エリアを拡大している。ただ、沿岸部でも第2級、第3級の都市にはまだ開拓余地が あるし、中西部ではまだ第1級すべてには入りきっていない。今後はそういう都市を面で攻めていく。

 具体策としては各地で小売店向けの勉強会を開き、ピジョン製品の魅力を説明している。百貨店やベビー用品専門店の店頭には「ピジョン コーナー」という専用の売り場を確保し、他社の製品が入り込まないようにしている。「ピジョンコーナー」は最初の取り組みから3年ほど経過しており、今年 末には200店に達する見通しだ。

 販売は現在、1次代理店と地域の2次代理店を経由させている。代理店を活用するメリットは当社が小売店との直接取引する必要がないた め、売掛金の回収リスクが非常に小さくなることだ。一方でピジョンの意思がなかなか末端の販売店まで伝わりにくい面もある。小売り向けの勉強会を通して我 々の肉声が伝わるよう努力はしているが、省の数も多いので効率的に進まない。そのため、売掛金の回収リスクを回避する利点を残しつつ、いかに販売現場に近 いところまで近づいていくか、新しい販売の枠組み作りを模索中だ。例えば、成績が振るわない2次代理店については取引関係を解消し、1次代理店に直接地方 に進出してもらうようなことも考えていく。

(聞き手はNIKKEI NET 山田喜芳)
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