キングソフト代表取締役
広沢一郎氏
  金山軟件有限公司は、ウィンドウズ95が登場するまで中国語対応ワープロソフトで90%以上のシェアを握っていた、中国でも最大級のソフトウエア開発会社 だ。しかし、マイクロソフトがOSとの高い親和性を武器にオフィスソフト業界に参入してくると、じりじりとシェアを落とし、03年には10%程度に落ち込 んだという。

 この状況を挽回すべく開発したのが、03年に発売した「WPS Office 2003」だ。マイクロソフトオフィスの機能と操作インターフェースを徹底的にリサーチし、互換性を最重要視して再構築したオフィスソフトである。ワープ ロソフトの「ライター」、表計算ソフトの「スプレッドシート」、プレゼンテーションソフトの「プレゼンテーション」で構成される。現在ではこの低価格なオ フィスソフト(WPS Office 2003の個人向けライセンスは160元、WPS Office 2005は個人向けライセンスであれば無料!)と、年間更新料が無料のセキュリティソフト、オンラインゲームなどを主軸に業務を展開している。

 「キングソフト」は、この金山軟件有限公司が51%出資し、ジャフコなど日本側のベンチャーキャピタルが49%出資して05年3月に設 立した日本法人だ。「WPS Office 2005」をベースに日本語環境向けにローカライズした「キングソフトオフィス2007」を07年2月に発売している。今回はキングソフトの代表取締役で ある広沢一郎氏に日本市場の魅力とオフィス互換ソフトの戦略について話を聞いた。

――日本市場の魅力とは?

キングソフトオフィス2007スタンダード。ワープロソフトのライター、表計算ソフトのスプレッドシート、プレゼンテーションソフトのプレゼンテーションを一本にパッケージして直販価格4980円

 一番大きいのは、個人がソフトウエアを購入して利用する、という慣行が浸透していること。海賊版が横行する中国では、一般ユーザーに正規 版を販売することはもはや不可能であり、市販ソフト市場は崩壊している。日本や欧米であれば、店頭でのソフト販売やダウンロード販売による収益モデルを再 構築できると考えた。

 ただ現在は、メーカー製のパソコンのほぼすべてにマイクロソフトのオフィスソフトがインストールされており、こうした状況に挑むのは難しい。当面は自作パソコンやBTOユーザーなど、コスト意識が高いユーザーに向けてアピールしていきたいと考えている。

――日本語版のローカライズは誰が、どのような手法で行っているのか

 キングソフトオフィス2007には縦書き機能など、日本語環境特有の機能も多数実装しているため、金山軟件有限公司の中に専用の開発チー ムを作っている。その開発チームに、こちらからの要望をまとめて送り、それを反映してもらうという形だ。現在日本で利用しているユーザーはオフィスソフト のヘビーユーザーが多く、寄せられる声は開発陣としては無視できない存在となっている。

 セキュリティー対策ソフトに関しては、「セキュリティーに言語の壁は存在しない」ため、特別な開発チームは存在しない。ローカライズと こちらとの折衝を担当する人間が数名いる程度だ。ただし、ファイル共有ソフトを媒介して広まるウイルスなど、基本的に日本にしか存在しないものについて は、こちらから情報を提供して対応してもらった。

 いずれにしても欧米企業とは違い、日本市場の重要性をにらんで迅速に対応するよう心がけている。

――ワープロソフト、表計算、プレゼンテーションのほかに、ビジネスソフトを追加する予定はあるのか

エクセルで作成した表データを、スプレッドシートで開いたところ。右クリックで開くプロパティ画面も含め、エクセルとほとんど変わらない

 現状ではその予定はない。マイクロソフトオフィスソフトを構成する各製品と比較すると、たとえばパワーポイントで7~8割、エクセルで 5~6割の機能を取り込んでいるというような状態だ。まだまだ改善の余地は大きい。金山軟件有限公司では、数カ月ごとに大がかりな機能のバージョンアップ を行っている。現在も、取りこぼしてきた機能性をキャッチアップしている最中ではあるのだ。

 ちなみに日本向けのキングソフトオフィス2007でも、07年5月に大規模なバージョンアップを行った。ユーザーの「ここをこうしてほしい」という声を少しでも早く取り込むためにも、開発リソースは集中して投下したいと考えている。

――ほかのオフィス互換ソフトについてはどう考えているか

 オープンソースで開発されている「オープンオフィス」は、多少気になっている存在だ。導入コストの低さや機能性を考えれば、ユーザーにとっては比較の対象となることもあると思う。

 毎年バージョンアップしていくワードやエクセルの全機能を、フルに活用しているユーザーは非常に少ない。多くのユーザーはオフィス95や オフィス2000の機能性で十分満足しており、そこにオープンオフィスや我々のキングソフトオフィス2007が入り込む余地があるわけで、その意味では 「競合する」といってもいい存在だ。

 しかしオープンソースでは、ソフトウェアの信頼性や機能の向上のアプローチのスケジュールを確約しにくい。基本的には、有志が余暇を 使って開発するものだからだ。情熱だけでは開発を続けることはできない。オープンオフィスにしても、サンマイクロシステムズが「StarOffice」を オープンソースコミュニティに解放したからこそ生まれたものであって、大規模なソフトウェアを1から開発するのは、そもそも無理がある。その意味では、社 内リソースをきちんと管理し、コストをかけて開発しているソフトウェアの方が、最終的には高いクオリティの製品を提供できるはずだと考える。

――オンラインのオフィスソフトを脅威と感じるか

 オフィスソフトの場合、「オンラインのみで利用が可能」というモデルは考えにくい。詳細なヘルプや豊富なテンプレートをオンラインで提供 し、オンラインとの連動を促すような流れも一部では見受けられる。しかし、ビジネスの現場での書類作成は、原則的には個人がスタンドアローンで行うもの だ。また、ネットにつながっていないと書類が作成できない、閲覧もできないということであれば、少なくとも現状の通信コストが高いモバイル環境では話にな らない。

 もちろん、将来的にもオンラインでの利用を原則とするオフィス互換ソフトが普及しない、とは言わない。しかし、オフィスソフトというも のの性格やユーザーの利用環境、およびネットワーク環境の状況を考えると、現在は「脅威」ととらえるほどの状況ではない。現状のオンライン対応オフィスソ フトに関しては、期待感だけが上滑りしている感が否めない。

――今後の方針は

3ユーザーまで利用できて年間更新料が無料の「キングソフト インターネットセキュリティ 0×3(ゼロバイスリー」。6月29日より直販価格3880円で発売する

 テレビや雑誌広告を大々的に打つのも一つの手だが、その負担が大きすぎて撤退を余儀なくされたり、価格を高く設定せざるを得ないような状 況に陥っては元も子もない。ネットでは、いいものは必ず口コミで広まっていくものだ。従来通り、品質重視で価格を押さえるネットでのダウンロード販売を ベースにしたビジネスモデルを継続する。今後はこれに加え、BTOメーカーのパソコンなどへのプリインストール戦略も進めていく予定だ。


http://www.nikkei.co.jp/china/interview/20070619cda6j000_19.html
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